ドンファン氏に遺言書が!?その有効性は?これからどうなるの?
自筆で書かれた遺言書が公開!
一部のメディアから、和歌山県の資産家であった野﨑幸助さん(紀州のドンファン)の遺言書にまつわる続報が報道されました。
遺言書が家庭裁判所により検認されたそうです。
資産が30億円とも言われていますから、遺産の行方は世間的には興味深いですよね。
また、遺言書が実際に法的にはどのように扱われているのか、それを知るためには、とても参考になる事例と言えます。
なお、法律事件に関する鑑定(専門的な知識によって判断・評価すること)は、法律により弁護士の先生でなければ出来ません。
よって、以前もドンファン氏にまつわる事例を題材に遺言について考えてみましたが、今回についても、個別事件についての鑑定ではなく、あくまでこの事例を参考にして、遺言書に関わる手続きの有効性について、考えたいと思います。
①相続人以外の人物が、「検認」の申立てをしていいの?
検認とは、家庭裁判所に遺言書が確かにあったことを確認してもらう手続きことです。
自筆証書遺言の場合、必ずその遺言書を家庭裁判所に提出(申立て)して、検認を受けなくてはなりません。
今回の場合、野崎氏の遺言書を保管していたのは、会社の取締役であり30年来の知人とあります。
この知人は相続関係にないことになりますが、第三者が遺言書を保管することはあったとしても、その人が検認の申立てをするべきなのか、もしくは、しなければいけないのか、どうなんでしょう?
もし義務だとすると、立場としては責任重大ですし、結構負担ですよね。
では、民法に遺言書の検認について定めてある条文を見てみましょう。
民法第1004条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
つまり民法によれば「請求しなければいけない」のですから、やはり、被相続人(亡くなられた人)の知人が申立てをされたのは、何ら問題がないというよりも、その義務に基づき行われた行為であると言えます。
自筆証書遺言は紛失しないよう管理もしなければいけませんから、責任重大ですね。
②サインペンで、しかも赤色で書かれた遺言書は有効か?
野﨑氏の遺言書は、赤色のサインペンで書かれていたそうです。
これについても、民法を見てみましょう。
民法第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
つまり民法において、遺言書の記載は自筆であればよく、その筆記具の種類や色は定められていません。
極論ですが、鉛筆でも構わないのです。
でも一般的には、「自筆の遺言はボールペン(ペン)でなければならない」と聞きませんか?
その理由は、鉛筆などの筆記具は後からの修正が容易なため、遺言書の無効を張されるリスクがあるからです。
せっかく遺言書があり、それが適切に作成されていたとしても、裁判で無効を争われてしまえば、遺言書を作成しておいた意味がありません。
自筆で遺言書を作成されるなら、消えない筆記具で書きましょう。
③遺言書の「ひらがな」表記および誤字があった場合の有効性は?
今回の場合、書面のタイトルは「いごん」として、平仮名の表記だったようです。
一般的には、「いごん」も「ゆいごん」も、意味としては同様に扱われていますよね(厳密に言えば違いはあります)。
よって本来なら「遺言」と漢字で表記するのが一般的ですが、今回の場合、平仮名で書かれたのは、おそらく誤字(漢字間違い)となることを避けたかったのではないでしょうか?
遺言書が書かれたのが平仮名であっても漢字であっても、前述の民法第968条の通り、規程はありません。
ただし、漢字はそれ自体に意味を持ちますが、平仮名は組み合わせにより言葉に意味を持ちますから、「いごん」と書くよりも「遺言」と書いた方が、誰から見ても目的として明確で疑われる余地がないはずです。
漢字の方が望ましくはありますよね。
それならば、遺言書に誤字(書き損じ)があった場合を考えてみましょう。
これについては、判例があります。
(最高裁昭和四六年(オ)第六七八号同四七年三月一七日第二小法廷判決・民集二六巻二号二四九頁参照)
自筆証書中の証書の記載自体からみて明らかな誤記の訂正については、たとえ同項所定の方式の違背があつても遺言者の意思を確認するについて支障がないものであるから、右の方式違背は、遺言の効力に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。
つまり、相対的に見て明らかな書き損じであることが分かれば、効力には影響がないと読めます。
でも、誤字やその訂正方法の不備があって遺言書の無効を主張されれば、やっぱり裁判での争いになりかねません。
遺言の効力に大きな影響を及ぼすような箇所の誤りならば、なおさらですね。
自筆するときは、表記の誤りには十分に気を付けたいですね。
もし遺言書に誤字などがあって、それを修正するときには、その方法は民法で定められています。
民法第968条
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
具体的には、遺言書の修正箇所には、次のようなことをします。
- 場所を示す(2枚目の3行目など)
- 変更したことを示す
- 自筆で署名する
- 変更の場所に押印する
この修正方法が正しくなければ民法に反します。
よって、自筆での遺言書を書き損じたら、また最初から書くのが安全ですね。
最近はパソコンで文章を書くことが多い時代なので、いざ自筆で書くとなると、パッと漢字が思い浮かばない、もしくは正確性に自信がないことは、誰にでも良くあることですよね。
今回の場合、赤いサインペンで書かれたことからも推測できるように、改まって遺言書の作成に臨まれたのではなく、さほど準備もなくスラスラと書かれたもののようにも思えます。
ということは、単なる「下書き」だったんじゃないの?という疑念が生れるかもしれません。
④下書きであるのなら、遺言は有効なのか?
そもそも遺言書が下書きかどうかなんて、証明できるのでしょうか?
いくら下書きのつもりで書いた遺言書であるとしても、日付と押印があるなど、自筆証書遺言の要件を満たしていれば、有効な遺言書と言えますよね。
ただし、後から別の遺言書が書かれていた場合は、先のものは遺言の撤回とみなされますから、効力がなくなります。
民法第1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
もし下書きだったと主張するのなら、それ以後に書かれたとする正式な遺言書が存在するはずです。
それがないのなら、下書きであったとしても遺言者の最後の意思を記録する証拠となり、有効なのでしょうね。
自筆証書遺言は、確実性に乏しい!?
以上からも分かるように、自筆証書遺言は、有効無効が争点になりやすいのが現実です。
せっかく遺言書を書いていたとしても、その方法が自筆証書遺言であったばかりに、逆にトラブルになるということが、起こり兼ねません。
一方で、公正証書遺言なら、前述のようなことを理由に無効が争われるような事態は、原則ありません。
先日から世間を賑わしている、音楽家の平尾昌晃さんの相続トラブルの場合も、遺言書を、しかも公正証書遺言を作成してらっしゃれば避けられたはずです。
まとめ
今回の問題は、遺言書が自筆であったことです。ぜひ遺言書は公正証書遺言で作成し、トラブルを未然に防いでください。
決して他人事ではなく、誰にでも起こる問題かもしれませんよ。