認知症の相続人がいる場合の遺産分割|相続手続きを進める方法はあるの?
このままでは相続手続きができない!?
昨年あったご依頼の一つに、私としては残念に思うことがありました。
事態の複雑さ、困難さから、手続きを開始することを依頼者の方のご判断により、中止になったことです。
その他の業務でも、もちろん受任しても事情から手続きが開始できない、もしくは、途中で終了することはあるのですが、この場合は、完了することが不可能ではないにも関わらず、目的の達成を断念されました。
案件としましては、不動産の相続です。
土地を単独所有されていた親は既に亡くなられていて、その土地の上の建物は、ご兄弟で共有で所有されています。
しかも、そのご兄弟さんのうち、数名が認知症の症状があるということでした。
そして、その認知症のある方のお子さんとは疎遠で、あまり仲良くないとのことです。
複雑で難しいですね。
専門家の立場から言えば、当然ながら土地と建物ともに単独所有すべきです。
でも、相続人の中に認知症の方がいらっしゃる段階で、相続手続き(遺産分割協議並びに相続を原因とした所有権移転登記)はできません。
相続手続きをするのであれば、認知症の方への成年後見人の就任が必要です。
しかも複数人いらっしゃる、さらに、成年後見の申立てには原則、家族の同意が必要です。
認知症の方のお子さんと不仲であれば、同意を得ることは難しいでしょう。
だって、土地と建物を依頼者(側)の単独所有にするのが目的ですから。
認知症の方のお子さんは、将来的に言えば相続人となられますから、現在において、自己に不利に働く可能性のある申し出に、応じられるとは考えられません。
成年後見人の選任について
今回の場合、行政書士の立場では、出来ないことがたくさんありました。
まず、成年後見人の申立ては、既に認知症を発症してらっしゃれば家庭裁判所への手続き業務となります。
これは、司法書士の先生の業務となります。
これについては、提携する司法書士さんにお願いすることで解決できます。
次に、成年後見人の申立てには、相手方(認知症の方のお子さん)への同意が必要になりますが、これを代理ですることはできません。
交渉の代理行為は、弁護士でなければできないからです。
これも提携する弁護士の先生にお願いすることはできますが、今回は予算の関係で、依頼者本人がするほかありませんでした。
私の判断としましては、現時点では全ての解決(不動産の単独所有)は不可能であることから、まずは今できることから始めませんかと、ご提案させていただきました。
司法書士の先生と相談した結果は、まずは不動産を相続したい人に、現時点で少しでも持分を集めて所有権移転登記をしておくことでした。
法定相続と相続分譲渡などの方法が必要になります。
依頼者の方とお話したところでは、ご本人が相手方と交渉をされることは難しそうであったので、成年後見人は断念するというものでした。
将来のために、持分移転をしておくのも選択肢
そして、将来において相続人に変動があった時点で、その都度に少しでも持分を集めることで、徐々にではありますが、単独所有に近付いて行くと考えることができます。
何しろこの不動産のある所在地は都市部でしたから、市場価格では2000万円近い価値が見込めます。
この案件の最終的な解決には、弁護士の先生の登場が不可欠になると思われますが、それでも不動産の価値を考えれば、十分に手元に財産が残るはずです。
それをあきらめるのは、勿体なくない?と思いました。
依頼者の方には、お子さんがいらっしゃいます。
その子に財産を遺せるか、それとも極めて細分化された不動産の持分を引き継がせる(つまり問題の承継)かの大きな違いがあると思います。
覚悟と決意
しかし、判断されるのは、あくまで依頼者の方です。
時間も手間も労力もお金もかかり、もし親族と争うことになるかもしれないのは面倒なので、やめておくということでした。
軽重はあれ、問題の解決には依頼者の方の、強い意志がなければ解決できません。
私たちは、あくまで、そのサポートをするための存在です。
今回の場合であれば、私が当事者なら間違いなく手続きを進めました。
だって、2000万円をあきらめるのは、勿体ないですから。
放置をすることで最終的には、誰も喜ばない、だれも幸せにならない、残るのは処分できない空き家だけです。
方法がなければ仕方ありませんけどね。でも、今なら・・・ですよ。
これが相続の怖いところです。
今なら可能性がゼロではなくても、それを先送りにしてしまうと、もはや実現は不可能になってしまうことが往々にしてあります。
今回の案件を放置すれば、将来はおそらく空き家になりますから、それを回避する可能性が、今ならあったのではないかと思います。
まとめ
相続人は、時間が経過するにつれ代襲相続が発生し、法定相続人はどんどん増えていきます。その時には既に、全く方法が無い可能性が高いことがほとんどです。
でも、今なら、まだ間に合うかもしれません。もしくは、今の時点で一手を打っておくことで、将来のため、有効に働くかもしれません。
相続手続きは、ぜひお早めに、ですね。