遺産分割協議書への記載|登記簿それとも固定資産台帳、どっちの情報を書くべきなの?
登記簿と固定資産課税台帳の記載が異なる場合がある
登記簿(登記事項証明書)と固定資産課税台帳(固定資産課税明細書・固定資産評価証明書)では、記載が異なることがよくあります。これを知らないままに遺産分割協議書を作成し、相続人の全員から署名・押印、印鑑証明書の添付を貰ったとしても、登記申請の時に問題となったり、余計な手間とお金がかかったりして、スムーズに相続手続きが進まない可能性があります。
では、なぜ登記簿と固定資産課税台帳の記載が異なるのでしょうか。物件の所在地を示す方法としては、「地番」と「住居表示」があるのですが、登記簿も固定資産課税台帳も、「地番」で記載されています。建物なら、所在地の地番において家屋番号で示されています。しかし、登記簿と固定資産課税台帳では記載の情報が違うことが良くあるのですが、それにはいくつかの理由が考えられます。
①登記を放置しているから
言わば登記(管轄は法務省)は申請主義で、固定資産課税台帳(管轄は市町村)は調査主義です。そもそも、情報として管理する目的が違うからです。登記簿(法務局)は不動産という物権における個人の所有権の明確化及び保全と、不動産の円滑な活用促進のためです。一方、固定資産課税台帳(市町村)は、固定資産税の徴収のためです。前者は個人が自発的に率先して、自身の財産を保全するための手続きを行うことが期待できます。一方、後者は、税金の徴収が目的ですから、徴収権者である市区町村が率先して適切な情報を維持するよう、努める仕組みなのです。
登記を放置するということは、いわば個人が自身の権利を蔑ろにしているとみられても仕方ないかもしれません。それでも放置するのは法律(不動産登記法)に違反する行為であるとともに、自己責任でもありますが、変更事項につき適正に登記をしていなければ、現況を適切に正確に反映しようとする固定資産課税台帳とは、大きくズレていくことになります。
②固定資産課税台帳において、課税対象を区別したいから
登記簿では、条件さえ揃えば、所有者の希望による登記をすることが出来ます。例えば、住む家屋と隣接する倉庫を一体の建物として登記することも、条件が整えば出来る可能性があります。
一方、固定資産課税台帳においては、所有者の希望や意見を、役場の職員さんは聞いてくれたとしても、反映されるべき趣旨のものではありません。職員がルールに則り、粛々と資産価値を評価するのです。もし仮に、登記簿上で住居と倉庫が一体化していたとしても、課税する率が違うのであれば、居住空間と倉庫で割合を区別して、同じ物件であっても面積で分けて表示をします。適切な課税のために行われる適正な行政行為と言えます。土地、建物のどちらでもあり得ます。これにより、登記簿との表示の違いが生じるのです。
③登記されている面積等が、現況と違うから
登記簿は当然に、最初に登記簿に登載される時(表題登記)には、土地家屋調査士さんが測量をした図面などの証明書類とともに申請されますから、極めて正確な情報が登載されるはずです。しかし、その建物を解体したのに申請(滅失登記)をしないまま未登記の建物を建てたとか、増築したのに変更登記していないと、当然に現況とズレます。一方、固定資産課税台帳においては、職員が調査し、現況を台帳に反映させます。つまり登記簿上では、不正確な情報のままで存在し続けることになるのです。
結局、遺産分割協議書に記載すべきは、どっちの情報なの?
相続手続きを行う上で、不動産において所有権を公示できる方法は、登記簿に登載されていることです。しかも正確に。この原則からすれば、登記簿上において真正な所有者情報に変更することが求められるのですから、遺産分割協議書により情報を照合し確認したうえで、登記簿の情報を書き替える必要がある、よって、遺産分割協議書には登記簿に基づいた情報を正確に記載することが重要になります。
仮に、固定資産課税台帳を見て遺産分割協議書に記載した結果、登記簿の情報と違う場合はどうなるかですが、「面倒なこと」になり兼ねません。所有権の移転は、特定個人の財産を損なう(奪う)可能性があるのですから、法務局の登記官は慎重にならざるを得ず、もし所有者の変更事項に疑義が生じる書面であれば、申請は否認される可能性があります。ただし、書面自体が無効になるとかの問題ではなく、書類上に表示されている物件と現物(不動産)が同一だという証明が別途必要になる可能性があるということです。証明できなければ、あらためて遺産分割協議書を作り直す事態が起こり得るということは、同一性の証明ができないためです。
なお、未登記建物については、登記簿の記載がありませんから、遺産分割協議書において固定資産課税台帳による記載をするしかありません。
まとめ
遺産分割協議書は、相続人の間で、財産を分配(分割)した約束を書面にしたものです。不動産については、登記することで所有者が公示できる仕組みですから、原則として遺産分割協議書には登記簿通りに記載しましょう。
そして、 滅失した建物がまだ登記簿に記載されていたり、増改築などをして建物の床面積が変わったなどの場合には、登記簿を修正する申請(登記)をしましょう。その専門家は、もちろん司法書士の先生です。土地や建物に変更が生じた場合には、速やかに登記手続きをしてくださいね。