ドラマにおける設定の不思議!法令その他に矛盾している?

2018年9月21日

探偵が早すぎる!

何を隠そう、私は結構、ドラマ好きです。

ドラマ「探偵が早すぎる」、見てました?

大富豪の遺産を巡り、相続人である娘の命が狙われているところ、その刺客の計画を実行前に未然に防ぐという、あまりに斬新な探偵物語に、毎週わくわくしながら見ていました。

事件が発生する前に解決してしまうという仕事の早さは、設定として面白くはありますが、法律の観点からみれば、難しい問題が潜んでいるかも?ですよ。

①計画段階で未然に防ぐのなら、殺人未遂罪は成立するのか?

この場合、おそらく刑事事件による立件は難しいですよね。

日本の法律では、犯罪を計画した段階で刑罰の対象となるのは、2017年6月に改正された組織犯罪処罰法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)があります。

でも、当然ながら個人が個人に対して、犯罪を計画しただけでは、これには該当しません。

だって、心の中で、「あいつ~、許さないぞ!鉄槌を加えてやる!」って、一度くらいは誰しも思ったことぐらいあるでしょ!?

もちろん、「あたしゃ、そんなこと思ったことも無いよ」と言う方もいらっしゃると思いますが、実際に犯罪が発生しなければ、罪には問えませんよね。

このドラマでは、探偵が毎回”未然に防ぐ”から、いつまでたっても主人公は、命を狙われるのだと考えられませんか?

ほんと、かわいそうに。

命を狙われたのなら、絶対に自力解決はせずに、”まずは警察に相談!”ですよ。

これほど優秀な探偵なら、なおさら警察と協力のうえ、命の安全を十分に確保した上で、起こるであろう犯罪に備えるべきです。

そうすれば、以後もし何かあれば、真っ先に犯人側(大陀羅一族)が犯行を疑われるので、相続人である主人公の一華ちゃん(演者:広瀬アリスさん)の生命は守られていくのだと思います。

②探偵が罰せられないのは、おかしい!?

この探偵(演者:滝藤賢一さん)の決め台詞は、「神のものは神に、カエサルのものはカエサルに!」と言って、その未然に防いだ犯行の手口を、探偵が犯人に逆に仕掛けて懲らしめるというものです。

見過ごせないのは、相手方(犯人側)には実害が出ているんですよ。

実際に、相手方には後遺症になるまでの大けがを負わせてますからね。

犯人側は未遂なので逮捕されないでしょ!?

一方、この探偵は、殺人はしないことをモットーにしていますが、傷害罪ではアウトですよね。

③なぜ死亡した父親(被相続人)は、遺言書を書かなかったのか?

”突然の死だったので、仕方ない”じゃ済まされない事態ですよ、こりゃ。

その莫大な遺産により、娘が命を狙われているんですから!

一華ちゃんは、幼いころに児童養護施設にいて、その後に育ての親である橋田政子(演者:水野美紀さん)に引き取られていますよね。

そして現在は大学生という設定でしょ!?

十何年という時間があったわけで、この間に遺言書が書けなかったなんて、言い訳にもなりません。

「長女の十川一華に、財産の全てを相続させる」と公正証書遺言に書いておけば、大切な娘を危険に晒すことがなかったはずです。

児童養護施設にいた娘を、父親でありながら引き取ることもせずに、しかも自分の遺産のために命を狙われる状態に置くなんて、こりゃひどい親だ!と言わざるを得ません。

なにしろ自分(被相続人)の兄弟は、お金に貪欲で命を狙うことも厭わないような人物(強欲な大陀羅一族)であることは、会社経営の跡目争いの経緯でも用意に想像できたはず。

兄弟姉妹がお金に貪欲で、遺産のためには娘の命を狙うような状態ならなおさら、遺言書を書くことによって、兄弟姉妹の相続分(遺留分)は、認められなくなります。

ということは、命を狙う意味がない。

だって、仮に命を奪ったとしても、強欲な大陀羅一族は一華ちゃんの相続人にはなりませんから。

ぜひ、遺言書は書いておくべきでしたね。

④橋田さんは、どの立場で一華ちゃんを育てたのか?

ドラマでは、父親(被相続人)の会社の社員だった橋田さんが、一華ちゃんを引き取って育てたことになっていました。

そしてドラマで一華ちゃんは姓が十川であり、「橋田さん!」と呼んでいましたし、実際にも共同生活者のような雰囲気の関係性でした。

よって、戸籍上も正式な母子の関係にはない、と考えられます。

だとすれば、親族でもない橋田さんが、一華ちゃんの親権者もしくは監護権者であるかのように育てることにつき、とても非現実的だと思います。

児童養護施設にいたということは、そこを出て生活をするためには、引き取る人物がその子を保護し養育し、財産の管理などをして育てる者として相当であることの蓋然性が認められる必要があると考えられます。

当時、シングルマザーだった母親が病気のため死亡して、一華ちゃんが父親に引き取られていなかったとすれば、父親は当時はまだ認知していなかった可能性が高いと考えられます。

父親が認知した事実は子の戸籍に記載されますから、児童相談所もしくは児童養護施設が調べれば、父子の関係はすぐに分かりますから。

でも、父親は富豪であるのに、その子は児童養護施設に預けられていたのですよね!?

これは認知していない、もしくは、超無責任で薄情な人物だったに違いありません(極論かな?)。

民法によれば、親権者が死亡した場合については、親権者がいなくなったものとして、未成年後見人が選任されることになります(民法838条)。

では、未成年後見人がどのような基準で選ばれるかですが、被相続人の遺言が無い場合には、民法840条1項によれば、「家庭裁判所は・・・親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する」としています。

その実際ですが、家庭裁判所はあらゆる事情を考慮して、最も子供のために相応しいと思われる人物を選ぶのですが、その基準としては、親権者の死亡前から子供と同居している親族がいる場合には、その親族が選ばれることが多いとのことです。

ということは、ですよ。

橋田さんは一華ちゃんと親族関係にないですし、児童養護施設に尋ねて行くまでに過去に同居もしていない、本人及び死亡した親権者(母親)との接点もない人物に、家庭裁判所は橋田さんを未成年後見人として適当だと判断をするでしょうか?

だって、橋田さんは、父親の会社の社員であるというだけの存在ですよ。

もし父親が認知していれば、その関係性の繋がりは証明できますが、それでも同居もしていない父親の会社の社員に、大切な子を託すというのは、その存在としては、関係が希薄すぎます。

行政の判断に、かなりの無理、無茶がありますわな。

この状況は、あまりに蓋然性に乏しく不確定要素が強い人物に、安易に子どもの将来が託されたと言わざるを得ません。

また、現在において父親が死亡した結果、一華ちゃんが法定相続人であることが判明したということは、その間のどこかで、父親から認知が行われたと考えられます。

そうでなければ、相続人であることが戸籍から分かりませんから。

だとすれば、認知がされた時点で橋田さんによってなお、未成年の監護者として育てる状況が続いたなら、子どもの養育される権利が保証されるべき環境にない状況において、それを放置した行政の怠慢が問われるべきという、由々しき事態なのだと思います。

というわけで、一華ちゃんが暮らした住所地を管轄する行政は、極めて不適切な対応に終始したと言わざるを得ません(ドラマの想定がどこの市区町村かは知りませんよ)。

火曜ドラマ 「義母と娘のブルース」はどうなの?

このクール(期間)で、同じく”血の繋がらない親子”をテーマにした?

いやいや、”親子愛”をテーマにしたドラマがありました。

構成としては、「義母と娘のブルース」というタイトルそのもので、父と結婚した義母が、せつなくも波乱に満ちた日常の中で娘を育てるというものです。

このドラマの場合、義母の宮本亜希子(演者:綾瀬はるかさん)と娘のみゆき(演者:上白石萌歌さん)の関係は、戸籍上において親子関係にあったと考えられます。

きっと、普通養子縁組をされていたでしょう。

そして最終回において、義母が娘を育てる動機が明らかになりました。

仕事人(生粋のキャリアウーマン)であった義母の心の隙間を埋める、また、両親の死亡により幼少期に得られなかった家族との絆を育むため、娘の実父と結婚して育てることにしたというものでした。

でもこれって、結婚の面からも、他人の子どもを育てるという面からも、目的としては適切だとは言えないと考えられます。

民法では婚姻が有効であるためには、当事者双方に婚姻をする合意があることが必要であるとされています。

いわゆる”婚姻意思”なのですが、これが何かについて通説では、婚姻の実体を重視する立場から、社会通念にしたがって夫婦といえるような生活関係を形成する意思が婚姻意思であるとされています。
その一方で、相互の身分関係の安定を重視する立場から、婚姻意思とは婚姻の届出をする意思であるとする見解もあります。
この点について、判例(昭和44年10月31日最高裁判決)では、婚姻意思につき、「当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思」であるとした上で、子に嫡出子としての地位を得させるための便法として婚姻の届出をしても、そのような婚姻は婚姻意思がないのであるから効力を生じないとしています。

簡単に言えば、子どもを実の子にするために結婚しても、このような夫婦には婚姻意思が認められず無効ですよ、と言っています。

このドラマの場合、極めて微妙ですよね。

ドラマの最終回で義母が認めている通り、結婚の目的は「子どもを育てること」です。
しかし、ドラマ後半でのパン屋の店長(演者:佐藤健さん)とのやりとりの中で、死亡した夫(演者:竹野内豊さん)への愛情があったことは間違いないようです。

でもやっぱり、登場人物が関係性を築くスタートのきっかけが「子育て」にあるのなら、この義母のとった行動(父親との結婚)は、適切ではなかったと言わざるを得ません。
だって、子どもを育てるという目的において、”みゆきちゃん”でなくても良く、結婚はあくまでそのための要件にすぎなかったということになりませんか?

このドラマでは、結果的に義母と子の間に「愛」が生れたのでハッピーでしたが、そうではない場合で、この事実を知ったなら、その子はグレますよ、きっと。

この義母(亜希子さん)の場合、他人の子どもを育てることを希望するのなら、まず愛のある結婚を誰かとする。

そして、子どもの幸せを第一にして育てるという目的のもと、その配偶者とともに里親制度を利用し、その子を愛情をもって育てる。

この方法が、この国の制度としては適切だったのかなと思います。

ナナメに見てると、ドラマは面白さ半減

以上の考察は、あくまで法律面で見ての矛盾であって、敢えて粗探しをしてみました。

もちろん、どちらのドラマもフィクションですから、とても楽しく毎回見ていましたよ。

逆に、ドラマのようなことが認められるような法律なら、親として子として家族として、もっと幸せな出会いが増えるのかなと思います。

他人の子どもを育てる制度は複雑で、要件も厳しいですから。

子どものため当然のことですが、法令も実態もすべては子どもの幸福のため福祉のため、良い社会であって欲しいと願います。

Posted by synce-office