賃貸借と使用貸借の違いとは|居住権・占有権など保護される権利に差があるの!?追い出されないための方法とは?
不動産を使用する場合、タダより怖いものはない!?
親の土地に子どもが家を建てて住んでいるというケースを、よく目にします。
本来なら、土地の名義も子に変更しておくべきですが、そうすると生前贈与ということで、贈与税など、その他の手数料もかかります。
親の名義のままで、家を建てるというのが、一番お金がかからない方法なのだと思います。
するとこの状態は、土地に関して言えば、「親から子に土地を貸している」状態になります。
不動産の貸し借り、2つの形態
ここで知っておきたいことは、不動産の貸し借りには、2つの状態があることです。
①賃貸借
②使用貸借
①は、不動産を使用する対価として、賃料が支払われている状態のことを指します。
②は、無料(無償)で他人の所有物を使用している状態を指します。
賃貸借とは
いわゆる賃貸物件に住んでいる方は、もちろん①の賃貸借契約に基づき、賃料を払って住んでいますよね。
会社などで、土地を借りて自社の建物を建てて事業をされている場合も、地代を払っていることになります。
当然ながら、他人さんがタダで使用させてくれることは、まずありえませんから。
適正に賃料を払っているなら契約としては「賃貸借」となるのです。
賃貸借は、民法のほか、「借地借家法」という法律で保護されており、契約書の有無に関わらず、有効に賃貸借契約が成立している状態であれば、家主(貸主)からの都合による退居の申し出では、基本的に退去を求めることはできません。
なお、有効に賃貸借契約が成立している状態とは、賃料が不当に廉価もしくは無償(無料)ではないということです。
賃料を支払う効果として、使用(居住)する権利が行使(主張)できるのです。
使用貸借とは
親子の間では、そもそも生前贈与をせずに家を建てるという状態が多いため、地代を支払っていないケースが多くあります。
これって、②使用貸借になるんですよ。
地域の家賃相場と比べて著しく安いと、適正な家賃とは言えず、”固定資産税を負担していたとしても、それをもって家賃とはみなされない”とするのが、一般的な解釈となっているようです。
実態が賃貸借なのか、使用貸借なのかが重要ですから、注意してくださいね。
なお、使用貸借は、そもそも「借地借家法」の適用がありません。
対価(家賃など)を支払っていないのですから、使用者(居住者)を強く保護する必要がないからです。
よって、使用貸借は民法によるところになります。
(借用物の返還の時期)
第597条 借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。
2 当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。
3 当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。
ここで注意していただきたいのは、期限も目的も契約で決めていなければ、大家さんから、「いつでも返してね」と言われてしまうことです。
また、期限や目的を決めていたとしても、その約束が守られなかったなら、「期限内であっても返してね」と言われてしまうことです。
実際にも、親の介護をするという条件で、親の土地に子が家を建てたところ、子が親の介護を全くしなかったので、親が土地の返還請求をしたという事例があります。
この場合も、賃貸借契約であったなら、「借地借家法」により、居住する権利は守られたはずです。
形式的に「契約書」を作ったら、どうなるの?
とりあえず契約書を作っておいて、その契約書の題名が、「賃貸借契約書」となっていたらどうでしょう?
でも、実際には対価(地代)が払われていないのなら、実体からみて使用貸借であることは明白です。
よって、対価や義務を果たしていなければ、貸主から不動産の返還請求をされる事態があり得るのです。
使用貸借の場合、親子間で契約書を交わされていないケースがほとんどですが、身内であっても口約束ではなく、使用貸借契約書を作成しておくのが双方のために、良いと思いますよ。
使用貸借の相手方が他人なら、なおさら契約書を!
親と子の間で無償で不動産を使用するのなら、よほどの不測の事態がなければ大丈夫かもしれませんが、これが他人の間の場合は、どうでしょうか?
普通に考えて、他人と無償で不動産の貸し借りをするなんて、通常はありえませんよね。
よほどの間柄の者同士で、個人的な繋がりがあれば、無くはないのかもしれません。
この場合なら尚更、ちゃんと「使用貸借」として契約をしておくことが肝心です。
でなければ、民法の規程により、住むところを追い出されてしまうかもしれませんよ。
民法によれば、下記の定めがあります。
第599条 使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う。
つまり、貸主(大家)の死亡では、使用貸借の契約は終了しないということですよね。
借主(居住者)は、「だったら、私が生きている間は、安心じゃん。」と思われるかもしれません。
しかし問題となるのは、民法597条第2項に定める「当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。」です。
通常は大切で価値ある不動産を、他人と、しかも無償で貸し借りする場合、やっぱり、貸主(大家)と借主(住人)の間に、よほどの個人的な繋がりがあるからこそ成立する話で、お互いが受容しているのなら、まあ当事者が決めたのですから、それも有り得る話となるわけです。
しかし仮にこの場合で、貸主(大家)が亡くなったらどうですか?
そして、その貸主の相続人が、新たな所有者となったら、どうですか?
借主と新たな貸主との間に、特別な人的関係って、自然発生的には生れませんよね。
お金で結び付きが生じる関係性にすぎません。
だからです。使用貸借に該当する場合で、特に赤の他人なら尚更、ちゃんと契約をして、「期間を設定する。しかも、自動更新の文言も入れておく」のと、「使用の目的を定めておく」ことを、書面で交わしておくことが重要なんです。
そして、その契約が賃貸借だと主張するなら、地域の家賃相場を毎月支払う、しかも、振込や領収書で記録を残しておくことが必要で、この状態であれば借地借家法が適用され、居住する権利が守られると考えられます。
なお、令和2年4月1日から改正された民法が適用されます。契約書の記載事項などにご注意ください。
まとめ
「貸主さん、いい人だから大丈夫♪」では、自体(事態)が変われば、立退きを迫られる事態になりかねませんよ。
だって、お金を払ってないのですから。
無償で使用することに関しても、ちゃんと契約書にして署名押印し、保管することが、大切ですね。
以上、賃貸借と使用貸借の違いにつき、一般的な解釈について触れました。
なお、個別具体的な事例による法的な判断は、弁護士の先生でなければ出来ません。また、話し合いで解決できなければ、調停や裁判になります。これでは安心して生活することができなくなります。
行政書士が出来ることは、争いのない段階にて、書類(契約書など)の作成を前提としたご相談となります。
ご了承をお願いします。